原宿にあるファッションケアたきもと(※残念ながら、現在は体調を崩され閉店(2018.9追記))の代表、そして日本ファッションケアの代表理事も務める滝本さんに、普段なかなか聞けないクリーニングの実情について、ちょっと詳しくお伺いしました。ファッションケアたきもとは原宿という場所柄、業界人が数多く訪れる人気店で、難易度の高いシミ抜きを得意とし、アパレル各社からのクリーニングに関する相談も多いといいます。
今回は、クレアンでも時々ご依頼がある、なかなか扱いの難しいシルクのクリーニングについて伺いました。
聞き手:
シルクのジャケットを洗う場合、エリの汚れが多くてもやはりドライクリーニングですか?
滝本:
薄い色のシルクのジャケットでエリに汚れがついているもので、
汚れが黒っぽい色をしている場合は、皮脂が主ですから、ドライで取れます。
しかし同時に水溶性の汚れが付いていることもあるので、前処理として水溶性の洗剤(中性)でブラッシングします。
その後ドライ、水を通して汚れを抱き込んでいるミセルを取るという工程ですね。
聞き手:
ウェディングドレスなどのシルクの生地は水に浸けるとシワシワになってしまって、
水洗いをしてはいけないといわれているんではないでしょうか。
滝本:
そんな事はありません。洗いからゆすぎまでを同じ温度で作業すると、それほどシワにはなりません。
お湯から水へ、水からお湯に変わることによって、熱乾燥させることによって、
繊維の収縮が起こったり、よじれが生じたりするのです。
ウェディングドレスなどの撚り(より、ねじれのこと)が強い織り方のシルクは「タフタ」といいます。
薄いブラウス生地と違って、織りに畝(うね)があり、それが折れてしまうと直らない性質を持っています。
特に厚みのあるシルクの場合、しわがよっただけでも、アイロンでもなかなか元に戻りません。
ウェディングドレスの生地は、何倍にも圧縮して織られています。
ツヤがあって独特の風合いがありますが、一方、糸の繊維が折れてしまったり、
シワになったりしやすい性質を持っているのです。
しかし、水に浸けるだけでは糸の繊維が折れる事はありません
。機械で洗うことで、かき回したり、擦れたりすると、
糸の繊維が折れてしまったりして、しわができてしまうのです。
聞き手:
シルク素材は脱水機にかけてもいいのですか。
滝本:
脱水機にかけることも、原則としていけません。
染まりにくいシルクには12時間染めというのがあり、
スレが起きない水流速度を計算して機械を廻します。
12時間、運動しても生地が擦れない、へたらないようにして染色しているのです。
同じようなやり方でクリーニングもすれば、水にも十分耐えられるシルクの洗い方ができるのです。
強く洗ってしまったり、脱水をきつくしてしまったりしない、
できれば脱水はしないで、ダラ干し(脱水しないで水がしたたり落ちる状態で干すこと)が良いのです。
効率を考えた場合、ウェディングドレスの水洗いは相当な時間と労力を要します。
一般的には、生地に最も刺激のない石油系のドライクリーニングで洗うのが良いでしょう。
汚れのある場合は、部分的に前処理後処理をする。
汗など水溶性の汚れが懸念される時は、極力擦れたりしない方法で水洗いをするということになります。
註)タフタ
タフタ(taffeta)とは、平織り(縦糸と横糸を一本ずつ交差させて織る織り方)で薄地、張りがある織物で、光沢のある質の良い生地。縦横別の糸で織ることで生地の横方向に畝(うね)がある。横畝により陰影が生じるため、縦横糸の配色によっては、見る方向により色目が変わる独特の発色が現れる「玉虫効果」がある。