着物・和服は高価ですが、流行にはあまりとらわれませんので永く使いたいものです。汚れたらすぐに除去する。定期的に「虫干し」(乾燥)をするなど、お手入れをこまめにすることによって着物は代々に引き継いでいくことが可能となります。
こちらのページでは大切な着物を永くお使いいただくために行った修復や柄足しなど様々な作業のビフォーアフターをご紹介いたします。
訪問着についたワインのシミ
和服姿でパーティや会食に出かけることがありますが、気をつけていても起こるトラブルが、飲み物やワインをこぼしたり、こぼされたりすることです。これはワインのシミです。着物の前身頃の柄の上や回りに赤ワインがかかってしまいました。
赤ワインは染料のように色がつきやすく、応急処置をしても色が残ります。時間経過で変色してしまっているので、クリーニングの洗浄でも色は取れません。正絹(シルク)の漂白はとても難しく特殊漂白となりました。柄の色が変わらないように少しずつ漂白することですっかりきれいになりました。
訪問着の柄を残したままの染め替え
淡い雰囲気のきもので、「菊の模様がとても気に入っていたが、汚れや黄ばみが目立ってきたのでなんとかしたい」というお客様からご要望です。
地色が薄く、少し汚れてもまた汚れが目立ってしまうので、柄を残して大胆にイメージを変えてみてはどうかと提案にしてみました。作業は着物の本解きをして、汚れを落した後、柄だけが染まらないように、糊伏せをして地色を染めます。糊伏せも、上手く伏せないと葉や花びらの先のシャープな感じが消えてしまいますので、そこが職人の腕の見せ所です。
遠目では良く見えなかった柄も、地色を黒にすることで際立って見えるようになりました。全体的に着物の淡いイメージはなくなりましたが、柄色が中間色ですので派手さも出ず、すっきりとした染め上がりです。
付け下げの金の柄足し
着物・和服の染み抜きは、シルクですので漂白ができないことが多く、一般の着物クリーニングでは出来ません。白色や淡色など、色によっては、染料掛け(色掛け)で修正することもできません。
この付下げは、胸に汗の変色ジミや、袖に食べこぼしの変色ジミ。他全体に変色ジミがありました。
漂白テストの結果、地色が漂白剤で完全に抜けてしまうことが分かりました。広い範囲で色が抜けてしまいますと、きれいに直りませんので柄を足すことで、シミ跡を隠してしまうというご提案をしました。金彩で松の柄を陰のように足すことで、きものの雰囲気を派手にせず、シミを隠そうという提案です。柄足しの際には、デザイン的に違和感ないように柄足しをするために、バランスを見て柄を入れていきますので、シミの無い部分にも柄足しをすることもあります。図案に関してお客様に大まかな構図はお伝えいたしますが、詳しい絵柄は御一任ください。着物を一から作る事ができる和服の技術者ならではの匠の技です。
訪問着の金の柄足し
訪問着がカビによる変色で点々と斑点が出てしまいました。これだけ濃い変色になってしまうと、漂白作業でも黄味が抜けきりません。そのため、カビの成分を落とした後に金と銀の加工をして変色を隠しました。渋い金銀を使い、派手にならないようにしました。品よく仕上がりました。
着物・和服は張りを持たせるためにのりづけをしています。長い間タンスの中に入れっぱなしにしておくと、この糊にカビが生えて、茶色いシミが点々としてくるのです。お手入れとして、時々、天気のいい日に風通しの良い所で、陰干し(虫干し)をするとカビは防げます。
つづれ帯の吹雪柄足し
全体に原因不明の変色ジミが出てしまいました。帯は芯を入れるのに糊や接着剤が使われることが多く、それが湿気によって劣化し、表地に滲んできたのかもしれません。
つづれ帯の特徴として、漂白作業で生地が変質することが上げられます。漂白をして、シミが抜けても異質な感じになることがあります。変色部分が多いとそれだけ目立ちます。今回は、その状態になることがテストで分かりましたので、細かい吹雪柄で変色を隠すご提案にしました。柄色が赤やオレンジなど鮮やかな色ですので、背景が沈まないように見栄えのする色を選びました。仕立てを解かないと作業が出来ませんので本解き、仕立ても行っています。
白地から吹雪柄になりましたので雰囲気は大きく変わりましたが、柄と調和してよい雰囲気に仕上がりました。
絞り柄振袖の柄を残して染め替え
「紫色が全体に色あせたので、きれいにしたい」というご要望です。
全体に日ヤケがひどく、この状態では染め直すしかきれいにする方法がありません。柄は大きく、はっきりした柄だったものの、地色との対比で見ると柄色が薄い印象だったので、思い切ってきものを黒に染め変えるご提案をしました。黒で全体を染めてしまうと柄がほとんど見えなくなってしまいます。柄を残して黒に染め替えです。柄を糊ぶせし、染料が入らないようにしてから地の部分を黒で染めました。これは伝統的な着物染色の高度な技法です。仕立てを解き、汚れ落しをした後染めることでムラにもならず、きれいに染めることが出来ます。地色を黒にすることによって柄色とのメリハリが付き、柄がいっそう引き立ちました。
加賀友禅振袖の柄足し
「立派な振袖をいただいたが、身幅が足りず、解いて寸法を出そうと思ったら、生地はあるが、柄が切れていてなかった。なんとかしてほしい」というご要望です。
6センチ以上の無地部分が出るため、ただ隙間に柄を入れるだけでは柄に違和感が出ます。着物・和服のお誂えができる技術を持った職人と柄を描ける職人でしか出来ないお仕事です。周りの柄と同じように図案を起こします。その図案に基づいて細かく染料で描いていきます。裏から見た場合は分かりますが、表から見た時にはほぼ、分からなくなりました。柄・風合い共に違和感はありません。
加賀友禅訪問着の柄足し
今回も上の写真と同じような柄足し作業です。着物作家による銘品です。お嬢様に訪問着を譲りたいのだが、体格差がありすぎたため解いて寸法を出そうと思ったら柄が無かった、とのこと。この着物の場合は、モダンで大きな柄です。柄の中にも細かく柄が入った複雑な模様柄です。そのため別の柄を足してごまかすことは出来ません。本来の柄と同じ柄を重ねて足すことで全く雰囲気を変えずに柄足しをしました。着物作家が描かれた柄を損なうことなく柄足しをしなければなりません。
出来上がったものを表から修正していくので、裏から見た場合はその修正箇所はどうしても見えてしまいますが、表から見た時にはほぼ、分からなくなりました。柄・風合い共に違和感はありません。
男児用祝着のカビによる変色の補正
長年たんすにしまっていたため、カビが男の子の祝い着全体に出てしまいました。もともと着物は張りを持たせるため糊(のり)付けされています。その糊にカビが生えるのです。カビは経年変化で生地自体を変色させます。そうなってしまうと漂白作業も必要になります。また、丸洗いで消えたように見えたカビも根の部分は落ちていない為、再発する恐れがあります。ですので、水できちんと落とす必要があります。
水でカビ落とし・漂白・染料掛けをしました。漂白剤で地色が抜けてしまうこともありますが、元の地色に戻す為、その部分を一つづつ色付けします。
カビの数が多いため完全には消えていませんが、お客様には大変満足いただけました。
口紅が酸化してしまいクリーニングでは全く取れない絞り振り袖の修復
きもの・和服は正絹(シルク)が多いものですから、汚れが付いたら除去は難しくなります。汚れが付いたら、油性の汚れは布にベンジンでつけて叩くようにして取る。食べ汚しなどの水性の汚れはきつく絞ったタオルで叩いて取ります。これは着用時ついていたシミをそのままにして保管されていたため、シミが酸化して変色してしまったものです。
この状態になったものは、一般の着物クリーニングのシミ落としでも取れません。染色技術がないと修復できないのです。シミ抜きをした後、色が残りましたので、染料掛け(色掛け)をしました。